膝関節の疾患について

膝関節に炎症が生じると、痛みや腫れ、可動域の制限が生じます。これにより、日常生活動作やスポーツ活動、歩行などが困難になり、生活の質が低下することがあります。最も一般的な関節炎の原因は、変形性膝関節症や関節リウマチなどです。また怪我などによって発生する半月板損傷、靭帯損傷などもあります。

変形性膝関節症

変形性膝関節症は、膝の関節軟骨がすり減っていくことで、関節内に炎症を引き起こす疾患です。老化、肥満、外傷などが原因となることがあります。痛みや可動域の制限などの症状が現れ、進行すると膝関節が変形（O脚、X脚）することがあります。日常動作や基本的動作にも支障をきたすことがあり、生活の質を低下させる原因となります。変形性膝関節症は圧倒的に女性に多いという事実があります。日本全国で患者数は2,530万人とされ、国民の4人に1人は多少なりとも症状に罹ることになります。治療法としては、薬物療法や多血小板血漿注射、運動療法、関節鏡下手術、膝骨切り術、人工膝関節置換術などがあります。
関節リウマチ

関節リウマチが膝関節に影響を与えると、黄色く濁った関節液が膝にたまって腫れる関節炎が生じます。その結果、歩行時に痛みを感じたり、階段の上り下りが困難になります。また、腫れがひどい場合は夜間にも膝が痛むことがあります。関節リウマチも女性の患者が多い病気です。治療法としては、薬物療法やバイオ製剤の飲用、フィジカルセラピー、また症状に応じて各関節で人工関節置換術や関節形成術などの手術が行われることもあります。
半月板損傷

半月板損傷とは、膝関節内の半月板（軟骨の環状の構造物）に損傷が生じた状態を指します。一般的には、スポーツの際の膝の捻挫や膝を強打したときなどに発生することが多く、急性の症状として、膝の痛み、腫れ、違和感、不安定感などが現れます。また、慢性的な症状として、膝の痛みや腫れが繰り返し現れることもあります。中高年では半月板変形を伴って半月板逸脱を生じて変形性膝関節症直行の原因となります。治療法としては、原則的に手術的治療（半月板修復術や半月板摘出術）などが必要となります。
膝靭帯損傷

スポーツや交通事故などで、膝に大きな力が加わった場合、外力の向きに応じて靭帯が損傷することがあります。内側側副靭帯（MCL）は外反力によって、外側側副靭帯（LCL）は内反力によって損傷し、また脛骨上端の前内方に向かう外力で前十字靭帯（ACL）、後方への外力で後十字靭帯（PCL）が損傷することがあります。内側側副靭帯損傷が最も頻繁に起こり、外側側副靭帯の単独損傷は非常にまれです。強い外力がかかると、複数の靭帯に損傷が及ぶこともあります。損傷の程度により手術（MCL接合術、MCL・ACL・PCL再建術）が　必要になります。

治療法について

変形性膝関節症の治療には、手術を必要としない保存療法と手術療法の2つがあります。保存療法は、運動療法や薬物療法を用いて症状を緩和する方法で、まず試みられるべきです。薬物療法は、つらい痛みに対する基本的な対症療法です。多血小板血漿注射による再生医療、保存療法を2〜3ヶ月試しても改善しない場合、または膝の痛みや変形が悪化している場合は、手術療法が必要となることがあります。

保存療法（手術以外の治療）

ヒアルロン酸注射
変形性膝関節症では、関節内の潤滑油である「滑液」が減少するため、関節の中に直接注射することで、滑液の主成分であるヒアルロン酸ナトリウムを補填する治療法があります。ヒアルロン酸は水分を取り込む能力が高く、関節内の滑りを良くし、痛みを軽減する効果があります。
装具療法
膝を安定させ負担を軽減するためには、サポーターだけでなく、外側楔状インソールと呼ばれる足底板を使った装具療法が一般的に用いられます。外側ウェッジと呼ばれる、外側（小指側）が高くなった中敷きを靴に挿入することで、O脚を矯正し、膝にかかる負荷を減らすことができます。
リハビリ療法・運動療法
変形性膝関節症の運動療法は、膝の関節可動域や筋力を改善し、関節への負荷を軽減することを目的としています。
一般的には、以下のような運動が行われます。

有酸素運動	ウォーキング、水泳、自転車などの低負荷な有酸素運動が推奨されます。運動強度は個人に合わせて調整されます。
筋力トレーニング	太腿の筋肉を強化するためにスクワット、レッグプレス、レッグカールなど筋力トレーニングを行います。筋肉が強くなることで、膝への負荷を軽減し、膝の安定性が向上します。
柔軟性トレーニング	ストレッチングやヨガなどの柔軟性トレーニングが行われます。柔軟性が向上することで、膝の可動域が広がり、関節への負荷が軽減されます。
バランストレーニング	バランスボールや板などを使ったバランストレーニングが行われます。バランス感覚が向上することで、膝の安定性が向上し、膝への負荷が軽減されます。

再生医療について
変形性膝関節症の予防には、食事療法や運動療法により適正体重の維持や筋力増強が必要です。しかし、症状が重くなると手術が必要になる場合があります。しかし、最近では、再生医療の治療法が注目されており、血液中の血小板から始まり、骨髄や脂肪の中に含まれる間葉系幹細胞（MSC）を使用した、変形性膝関節症の症状を軽減するための医療技術が期待されています。この治療法は、これらの細胞をヒアルロン酸注射と同様に患部の関節内に注入するだけであり、大きな麻酔や入院は必要ありません。

当院の再生医療について

膝関節の手術について

保存療法（薬物療法、理学療法）では改善が難しい場合は手術を行います。主には、膝関節の形状を変える手術、人工関節置換術、間接固定術などの種類があります。

鏡視下半月板縫合手術

変形性の半月板は小さい創で縫合術と軟骨の凹凸の平治化を行います。損傷半月板はADLやスポーツ活動時の腫れや痛みの原因となります。また、放置すると10年オーダーの変形性膝関節症の発生につながるため、できるだけ縫合修復する必要があります。鏡視下で手術できるよう様々な道具が、準備されていて、これを使いこなすのが膝surgeon（外科医）の腕の見せどころです。
人工膝関節全置換術（TKA）

変形した膝関節の表面を薄く削り、人工の関節（人工関節）に置き換える手術です。痛みの原因になる部位を金属で覆ってしまうため、術後早期から膝痛の改善に大きな効果があります。手術では膝の前面を切開し、大腿骨、脛骨（および膝蓋骨）の痛んだ部分を削ります。金属の形にあうように骨を形成してゆき、骨セメントと呼ばれる接着剤を用いて人工関節を骨に固着して手術を終わります。膝蓋骨（お皿の骨）も必要に応じてポリエチレンで置換します。最近では、ナビゲーション技術など新しい技術が開発され、正確に手術を行うことができるようになりました。人工膝関節置換術には全置換術と単顆置換術の2種類があります。膝関節全体が痛んでいる場合は全置換術を行い、内側だけが痛んでいる場合は部分的に置換を行う単顆置換術を行います。単顆置換術は術後の回復が早い、膝の曲がりが良い、違和感が少ないというメリットがあります。
高位脛骨骨切り術（HTO手術）

高位脛骨骨切り術は、変形により内側に過度のストレスがかかっているため、自身の骨を切ってO脚を矯正し、比較的健康な外側にある軟骨に移動させる手術です。この手術によって、脚の形がO脚からX脚に変わります。この手術によって患者さんの膝は温存または再生され、正座やスポーツや農業などの仕事に復帰することができます。ただし、手術後は骨癒合まで3〜4ヶ月を必要とし、そのためにリハビリをしっかりと行うことが必要です。
手術の流れについて

03-6432-2602