肩関節の疾患について

五十肩は、きちんとした“病名”ではありません。実は中高年の “肩が痛い”、“肩があがらない” などといった単なる肩の具合、症状をあらわしたものなのです。“五十肩だから仕方ない”と自己診断されがちで、“放っておけば治る”“動かさないと固まる”と、根拠が怪しい俗説に迷走しがちなのも特徴的です。肩の痛みといっても、実際にはさまざまな原因があります。まず大事なことは“現在の病状を正しく診断し、ご自身も原因を理解すること”と考えています。病態がご自身でも把握できれば、解決の方法に合点がいき治療に肚を据えて臨むことができます。ここでは、一般的に肩の痛みの原因として代表的な疾患を紹介します。一般の方でもアスリートでも相談事は“痛みなく、安定して動けるように早くなりたい！”に尽きます。個々の背景とニーズを踏まえ、早期家庭復帰・社会復帰・スポーツ復帰へのより良い方法をご一緒に考えましょう。

腱板断裂

腱板とは、肩甲骨と上腕をつないで肩を動かす4つの筋肉のことで、骨に付着する端の部分を腱といいます。腱板断裂とは、この腱板が骨との付着部で切れてしまったことを指します。50歳代以降に好発するので五十肩と思い込み、様子見しているうちに悪化させていることが多いのも特徴です。原因として、転倒して肩を直接ぶつけたとき、手や肘をついて肩を突き上げてしまったとき、重いものを持ち上げたなどケガをきっかけに発症します。しかし、中には思い当たる原因がなく発症する場合もあります。症状は、肩を上げ下げするときの痛みや引っかかり感をおぼえ、動きに制限が生じます。また肩を上げる力が入らなくなります。夜間に痛みが悪化することも認めます。治療は、多くは注射・投薬、リハビリといった保存治療を行うことで、腱板が切れたままでも痛みの改善が見込めます。しかし、保存治療で痛みの取れ具合に不満が残る場合、筋力の低下が目立つ場合は腱をしっかりつないで治す手術治療を考慮します。また断裂は長く放置すると悪化拡大し(広範囲腱板断裂。腱板断裂の末期状態)、あとになって治療しても完全には治せないため、比較的若くて活動性が高い患者さんには早めの治療が望ましいとされます。手術は肩表面に小さなキズを数か所入れるだけで行う関節鏡視下手術で行います。キズが小さな分、術後の痛みも少なく入院期間も1週間程度で済みます。術後1ヶ月前後自分で付け外しできる装具をつけて、つないだ腱が再度切れないよう保護します。術後はリハビリを行います。回復には個人差がありますが、およそ日常生活は2ヶ月後、力を入れて行う作業は3ヶ月後以降の復帰を目指します。
反復性肩関節脱臼

肩がはずれることを肩関節脱臼と言います。反復性肩関節脱臼はケガで一度肩がはずれたあと、以後簡単に脱臼を繰り返すようになった状態を指します。ひどくなると手を伸ばす、寝がえりなどでも外れてしまうことがあります。これは脱臼時に関節の安定性をつかさどる靭帯や骨が剥がれたり、欠けたりしたためです。よって治療は壊れた靭帯や骨を元に戻さねばなりません。つまり完治を望むのであれば手術以外に方法はありません。リハビリで周囲の筋肉を強化するなどと言われることがありますが、壊れた靭帯や骨はきたえられませんので、根本的には無効です。基本的に手術創が目立たない関節鏡視下手術で靭帯や骨を修復します。入院は１週間程度を見込んでいます。術後3週間ほど自分で付け外しできる装具をつけて、修復部に負担がかからないよう保護します。術後はリハビリを行います。回復には個人差がありますが、およそ術後2ヶ月で日常生活は安定し、術後3ヶ月から徐々にスポーツ、肉体労働への復帰を目指します。
変形性肩関節症

膝や股関節と同じように、軟骨が摩耗して関節が変形したために肩の痛みと動きの制限が生じたものです。保存的治療を行っても痛みや動きが改善せず、日常生活に支障が残る場合は人工関節置換術が必要になります。また、腱板断裂が長く見逃されたために骨や軟骨の変形が進み、痛みがあり腕が上がらない場合にはリバース型人工肩関節置換術の適応となります。そのほか、関節リウマチ、上腕骨頭壊死、骨折や脱臼後の後遺症などで関節の変形・破壊が進行している場合にも人工関節での治療が行われます。
凍結肩

40歳代以降で、思い当たるフシもなく肩の痛みと著しい可動域制限が起こる疾患です。別名で肩関節拘縮(拘縮肩)とも言われます。冒頭で五十肩はきちんとした病名ではないとお話ししましたが、強いていうならこの凍結肩の状態を指します。じっとしていても肩が痛い、痛くて寝付けない時期と、安静にしていれば問題ないが動きの制限がひどいためちょっとした動きでも痛みが生じる時期に分かれます。主たる原因は関節包という肩甲骨と上腕骨を包み込むようにつなぐ靭帯部分の炎症と変性です。安静時痛・夜間痛が強い時期では、注射や内服薬で炎症をコントロールします。またむやみに肩を動かすことは控えます。安静時痛・夜間痛が軽減したあとは、逆にリハビリで積極的に動かして、変性した関節包の硬さと肩の可動域を取り戻します。このような保存治療に通常は良く回復しますが、大きなケガや骨折などに続発した場合、糖尿病に合併した場合は治療に難渋することがあります。保存治療に抵抗する場合は、関節鏡視下手術を考慮します。30分程度で硬く厚くなった関節包を低侵襲に取り除くとバンザイができるほどの可動域まで回復します。術後に装具は不要で日常生活や仕事復帰の制限はありません。再度硬くならないようすぐにリハビリを開始し、可動域の維持拡大を目指します。
石灰沈着性腱板炎

腱板内にカルシウムの結晶である石灰が貯まり、肩の痛みや動かしたときの痛み、引っかかり感と可動域制限が生じます。石灰は肩の基本検査であるレントゲンで診断がつきます。多くは注射療法やリハビリなどに良く反応しますが、治療を続けても症状が変わらない場合は関節鏡手術で石灰を取り除く必要がある場合があります。

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